デス・オーバチュア
第235話「大地の女神VS狂月の魔皇」



「…………」
クロスはふわりと宙に浮かび上がり、セレナと対峙した。
「ふぅぅ〜ん」
セレナは視線で犯すようにいやらしくクロスの全身を見つめる。
「……視姦しないでよ、気持ち悪い」
「大地の女神(セレスティナ)を取り込んだ……てところクロスティ〜ナ〜?」
「恐ろしく話が早いわ……一応初対面なはずなのに、何もかも知っているみたいね……」
「えぇ〜、あなた『達』のことはずうぅっと見ていたから……説明はいらないわぁ〜」
「それはとても助かるわね……じゃあ、この後のあたしの行動も解ったりする?」
「勿論よぉ〜、問答無用で私に襲いかかるんでしょう〜?」
「ええ、その通りよ!」
言い終わるよりも速く、クロスはセレナに殴りかかった。


「単純ぅ〜」
琥珀色の輝きを放つクロスの右拳は、セレナの突きだした左掌にあっさりと受け止められていた。
「別にぃ〜、あなたが私に拳を向ける理由なんてどうでもいいけどねぇ〜?」
戦う理由、殺し合う理由などどうでもいいというか、別に何も『無く』てもいい。
相手の強さに興味がある、自分の力を試したい、誇りたい……それだけでも魔族が殺し合う理由には充分だった。
「理由? 愛する者と大地を守るため……いいえ、あなたが全てのモノにとっての害……悪だからここで倒す!……てのが一番説得力あるかな?」
「いやねぇ〜、私、悪のラスボスか何かなのぉ〜?」
セレナは心外よといった感じである。
「どっから見ても、悪の大魔王か何かよ、あなた……自覚ないの?」
「あらぁ〜、それは私よりアンブレラの……」
「アース!」
「えぇ?」
クロスは右拳でセレナの左掌を押し続けながら、左手を突きだした。
「ノヴァァァァッ!」
左掌から莫大な琥珀色の光輝が放たれ、セレナを一瞬で呑み尽くす。
「……ふむ? どうも放出系の攻撃て加減が掴めないわね〜」
「あらぁ、簡単よぉ〜、息か唾でも吐くように……」
「っ!?」
「フッ!」
今度は、背後に出現したセレナの左手から赤い光輝が撃ち出され、クロスを呑み込んだ。
「……てやるのよ、きゃはははははははっ!」
セレナは暗黒の翼を羽ばたかせながら、愉しそうに高笑する。
「……な……なるほどね……」
「きゃは?」
「こんな感じっ!」
いつの間にか、セレナの上空に浮いていたクロスが、突きだした両手から膨大な琥珀色の光輝を吐き出した。
琥珀色の光輝はセレナを呑み込み、そのまま地上で大爆発する。
「ふううう……なんかぐう〜んと疲れるわね……」
「それは垂れ流しだからよぉ〜」
お返しとばかりに、クロスの上空にセレナが浮いていた。
「バケツに入った水を全部バシャアアッと零すんじゃなくてぇ〜、ホースから少しだけ勢いよく放射するのよ……こんな感じにねっ!」
セレナの突きだした右手の人差し指が一瞬赤く光る。
「つっ!」
クロスが左手を横に一閃すると、遙か遠方の地上が赤く爆発した。
「よく見えたわねぇ〜、これが『絞る』ということよぉ〜」
ピッピッピッとセレナの指先が何度も発光する。
「くっ! くぅっ!」
見えない何かを打ち払うように、クロスの両拳が何度も振るわれた。
その度に、周囲の遠方の地で赤い爆発が巻き起こる。
「一発一発は水一滴程度の消費よ、これなら何万……何億回撃っても私のエナジーは殆ど減らないわぁ〜」
セレナの指先が光る度にクロスが拳を振り、遠方の地がランダムに吹き飛び続けていた。
「くっ! チマチマと……」
撃ちだされる赤光はセレナの言葉通り水滴のようなサイズだが、一滴一滴が恐ろしく重い手応えがある。
そして、一滴一滴が山の一つや二つ余裕で吹き飛ばす破壊力を有していた。
「じゃあ、ちょっと大きいの行くわよぉ〜」
「うっ!?」
人差し指だけ突き立ていた右手が開かれる。
「きゃははっ!」
右掌全体から赤い光弾が発射された。
赤い光弾は、弾き返そうとしたクロスの両手を押し返し、赤い大爆発を起こす。
「……えふっ! ぐふぅ……痛い……」
「うふふふふっ、思い切り手加減したとはいえ、これで吹き飛ばないなんて……もう完全に人間じゃないわねぇ〜」
「ええ、今のあたしは地上を守護する女神様よっ!」
宣言と同時にクロスの姿がセレナの前から消えた。
「やっぱ慣れないことはするものじゃないわね」
クロスの姿はセレナの背後に出現する。
「滅殺! シルバーナックルゥゥッ!!!」
「ふんっ!」
銀色に輝く右拳と、セレナの振り向き様の左手刀が激突した。
「ゥゥウオオオオオオオッ!」
クロスは、気合いを込めて力ずくで手刀を押し切ろうとする。
「混合魔力ね……そんなの魔王以上の存在に効くと本気で思うのぉ〜?」
「くっ……」
「力の使い方が解ってないわねぇ〜」
「ぐううっ!?」
セレナはシュッと手刀を引き抜き、クロスの右拳を鋭利に切り裂いた。
噴き出した赤い鮮血が銀光を汚す。
「うふっ!」
「ああああっ!?」
笑う魔皇の右手が振り下ろされ、クロスが斜め一文字に斬り捨てられた。
クロスは大量の鮮血を噴出させながら地上へと落下していく。
「あはははははははははははははははははっ!」
セレナは落下していくクロスに両手を向けて、赤い光弾を連射し続けた。
赤い爆発がクロスの姿を呑み込み、さらにその爆発の中に新たな爆発が次々に巻き起こっていく。
「きゃはっ!」
連射を止めた次の瞬間、両手から膨大な赤い光輝が解き放たれ、より強大な爆発が全ての爆発を呑み込み地上を蹂躙した。
「うふふふふふふっ……気をつけないとこの島沈めちゃうわねぇ〜」
セレナは全然本気を出していない。
指から放つ水滴、掌から放つ光弾、両手から拡がるように放射した光輝、全てが溜めも練りもない、無造作に解き放ったものだった。
一言で言うなら、力を抜いて軽く撃っているのである。
「うふふ……ん?」
セレナが右手を頭上に突きだすと、天から降り立った琥珀色の光輝が、透明な障壁に弾かれるように霧散した。
「そういえばぁ〜、蠅を落としていなかったわねぇ〜」
矢継ぎ早に琥珀色の光輝が降り注ぎ続けるが、右掌を中心に拡がった透明な障壁が……雨を遮る傘のように光輝を遮り続けている。
「蠅の方は精気の錬成と速射が上手いわねぇ〜、でもぉ〜」
透明な膜の傘が内側から赤く染まっていった。
「脆弱過ぎよおおおぉぉっ!」
膜全体から赤い光輝が天へと放たれる。
降り注ぐ琥珀色の光輝を全て掻き消し、超巨大な赤い光柱が天を穿った。
「んん〜? 掠っただけぇ〜? 小さい的って当てにくいわねぇ〜」
小さいというか、的が遠すぎる。
しかもこの的は蠅のように飛び回って、小賢しく回避するのだ。
「仕方ない、少し近づい……てぇ〜?」
セレナは天へかざしていた右手を、『下』へと突きだす。
地上から噴出した琥珀色の光柱が、セレナの足下に発生した透明な障壁で遮られた。
セレナの力が下に向いている隙を逃さず、天から琥珀色の光輝が雨のように降り注ぐ。
「甘いぃ〜」
右手を下(地上)に向けたまま、左手を天へと突きだすと、頭上に巨大な透明傘(障壁)が発生し琥珀の雨を遮った。
「腕は二本あ……あらぁ〜?」
突然、セレナの正面にクロスが出現する。
「なら、三発目はどうやって受けるの?」
「下のあなたじゃないのぉ!?」
「アースクラッシュッ!」 
「うふぅぅっ!?」
クロスは琥珀色の輝きを集束させた右拳をセレナの鳩尾に叩き込んだ。
琥珀色の光が内側からセレナの体中を串刺しにするように噴き出す。
「やっぱり、混合魔力を構築するよりも、精気を拳に集めて普通に殴った方が威力があるみたい……ねっ!」」
クロスが飛び離れた直後、上下の障壁が消滅し、琥珀の雨と光柱が直撃し大爆発を起こした。



大地に降り立ったクロスの前には、石でできた大剣があった。
十神剣の一つ『大地の刃(アースブレイド)』。
大地に突き立っている剣の柄を掴むなり、クロスの体に精気が満ちていき、傷は全て癒え、彼女を完全に『新生』させた。
「まあ、狡いような気もするけど……元の容量の桁が違いすぎるものね……」
「あらぁ〜、遠慮なく大地と常に連結してくれていいのよぉ〜」
空からゆっくりとセレナが降りてくる。
彼女からはダメージらしいダメージ、消耗はまるで感じられなかった。
「ふん、それでようやくあなたと精気の容量が同じぐらいってこと?」
クロスの両手に琥珀色の輝きが宿り出す。
「うふふふふふっ、さぁ〜、どうかしらねぇ〜?」
セレナは無造作に左手を突きだし、クロスを余裕で呑み尽くすほどの巨大な赤い光輝を撃ちだした。
しかし、クロスの姿はすでにそこにはなく、セレナの上空へと移動している。
「はああっ!」
急降下するなり、琥珀色の左拳がセレナの右頬を狙ってくりだされた。
だが、その一撃はセレナの右手で容易く捌かれる。
「てりゃあっ!」
間を置かずに、今度は琥珀色の右拳がセレナの顎を狙って放たれた。
「うふふふっ」
セレナは僅かにバックステップし、琥珀色のアッパー(打ち上げ)を回避する。
「ああああっ! はああああっ!」
クロスは休むことなく両拳を打ちだし続けた。
琥珀の輝きを放つラッシュ(乱打)を、セレナは時に軽やかにかわし、時には的確に両手で弾きそらす。
「怖いぃ〜、私、格闘なんて野蛮なことできないわぁ〜」
「何言って……きゃあっ!?」
パシッとセレナの右手がクロスの左手首を掴んだ瞬間、クロスは自ら飛び出すように投げ捨てられていた。
「あらぁ〜、どうしたの勝手に転んだりしてぇ〜?」
「っつ……あなた……本当に嫌な女ねっ!」
クロスは再びセレナに飛びかかる。
突きだされた琥珀の右ストレート(強拳)を、セレナは体の軸をズラしてかわし……自分の足をクロスの足に『引っかけ』た。
「とおおおっ!?」
バランスを崩し、クロスは前のめりに勢いよく転ぶ。
「ほいっ!」
「ぐふっ!?」
セレナは俯せになったクロスの背中に、ジャンプして両膝を叩き込んだ。
「いつもの格好だったらハイヒールで踏みにじってあげたんだけどねぇ〜、きゃははははははっ!」
笑いながらセレナは空高く跳躍する。
「魔皇暗黒落月渦(まおうあんこくらくげつか)!」
セレナは体中から暗黒闘気を噴き出すと、高速で螺旋回転しながら降下する。
暗黒の巨大ドリルと化したセレナが、今だ倒れているクロスに襲いかかった。
「……っ」
ドリルが到達する直前、クロスは転がってその場から離れる。
一瞬前までクロスが居た場所に底の見えない大穴が剔られて、セレナの姿が消えていた。
「んっ!?」
何かを感じたのか、クロスは立ち上がると同時に後方へ飛び離れる。
「くああっ!?」
大地を内側から穿って飛び出してきた暗黒のドリルが、クロスを掠めて吹き飛ばした。
「あははははっ、別にやっていることはいつもと変わらないわよぉ〜、寧ろハイヒールじゃなくなった分パワーダウン〜?」
「つぁ……何がパワーダウンよ……」
クロスはなんとか体勢を立て直し足から着地する。
『いつも』という比較対象は解らないが、その威力は非常識なまでに強烈だった。
「そうだぁ、面白いモノ見せてあげるぅ〜」
何か思いついたといった感じの表情を浮かべると、セレナは左手を突きだし、右手を腰の位置に引き絞る。
「魔皇……」
セレナの全身から爆発するように瘴気と暗黒闘気が溢れ出し、右拳に集束された。
「ちょっと!?」
「暗黒拳(あんこくけん)!」
突きだされた右拳から爆発的な勢いで暗黒が撃ち出される。
その技は、紛れもなく暗皇ファージアスの魔皇暗黒拳だった。
暗黒はクロスを丸ごと呑み込もうと宙を駆け抜ける。
「ちっ! アーススマッシャー!!!」
クロスの突きだした右拳から琥珀色の光輝が解き放たれ、迫る暗黒と正面から激突した。
暗黒と光輝が互いを浸食しようと中空で喰らい合う。
「ねぇ〜、頭にアース(大地)をつければ何でも言いと思っていない〜?」
「うっさいわねっ! 技の名前なんてインスピレーション(直観的なひらめき)で決めていいのよっ!」
アースノヴァと違って、アースクラッシュやアーススマッシャーはセレスの知識にあったものではなく、クロスが今速攻で作った技(術)だ。
セレスには精気を拳に込めて殴るなどという発想はなかったのである。
シルバーナックルや神魔滅殺拳の要領で、拳だけに大量の精気を集めて相手に叩き込むという単純極まりない技がアースクラッシュだ。
アーススマッシャーは、どうも掌から精気を放出するのが上手くいかなかったので、遠方に向かって『殴る』ように精気を撃ちだしてみたのである。
神魔滅殺拳が直接拳を叩き込めなくても、遠距離を攻撃できたことから思いついたのだ。
「まあ、その意見には賛成するわぁ〜」
セレナは右拳から暗黒を放出しながら、左拳を腰の位置まで引き絞った。
「魔皇……」
アッという間にセレナの左拳に大量の暗黒が集束されていく。
「ちょっと待っ……」
「暗黒拳!」
「くううぅ……ああああああああっ!?」
セレナの左拳から二発目の暗黒拳が撃ち出され、放出され続けていた一発目の暗黒拳と混ざり、より巨大な暗黒拳になると、琥珀色の光輝を『粉砕』した。










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一言感想板
一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。



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